ひと昔前の風景写真家にとって大切な要素のひとつに、「撮影地を誰よりも多く知っている」というのがあった。ネットのない時代には、撮影地の情報は自らの足で歩いて探すしかなく、その情報も門外不出扱いだったと聞く。
マイナーな地形に関する情報も、ジオパークの広がりとともに、かなり楽に手に入るようになった。そこを足掛かりにさらえて行くと、たまにとんでもない宝物に出くわすことがある。この「まだら岩」は、最近のなかでは最上のお宝であった。パソコンのキーボードを叩くだけで、未知の被写体に会える、便利な時代に感謝である。
【まだら岩】
すさみ町の山奥、県道36号の道下の渓谷にある。全線道幅が狭く、駐車スペースになる路肩は被写体から少し離れたところにしかないので注意。
最初は層状チャートかと思って近づくと、あきらかに砂岩・泥岩の互層であった。地震などにより海底の土砂が崩れ、さらに深海に降り積もる際、泥と砂では堆積する速度が違うのでキレイな地層になる。この縞模様はそうしてできた。ただこの「まだら岩」だけが、磨かれた滑らかな質感になっているのは、地下で高温の熱水にさらされて、硬質な性質に変化したためだ。奇抜な景観というのは、何個かの要素が重なってその場所だけに見られる「特別」が生まれる。