熊野灘を背にして対峙している地層は、どれもがひしゃげ、折れ曲がっている。ボロボロになった層からは、大小の岩屑が脱落し、そこら中に散らばっている。美のかけらもない壮絶な気配に包まれたここは、まさに「岩の墓場」である。
圧倒され通しであったが、撮影が進むと少し冷静になるせいか、地層の境目に残る潮流の痕跡や、生き物の這った跡などが目に入ってくる。するとさっきまでは愛想のない無機物だった岩が、雄弁で親しみを感じる存在に思えてくるから不思議だ。
マクロとミクロの視点を入れ替えながら、その場所の個性的な顔を探すことこそが写真家の仕事である。
【フェニックス褶曲】
海溝の底に堆積した砂岩と泥岩の互層が元となっている。海洋プレートが大陸プレートの下にもぐり込む際、その上に載った砂泥互層の地層は、一緒に沈み込むことができず、大陸プレートの縁に押し付けられるように剥ぎ取られて行く。これを「付加体」と呼ぶが、この褶曲はその際にできたものだ。
フェニックス褶曲へは、一切の目印や案内板は用意されていない。これは明らかに意図的であり、足元が悪く、安易な案内表示は事故に繋がるという判断からだと思う。ここでもそれにも習い、アクセスの詳細は記載しない。どうしても行きたい方は有料のガイドを依頼する事。問い合わせ先は南紀熊野ジオパークまで。