恐山と聞くと、メディアの茶化した扱いもあって、おどろおどろしいイメージが先行してしまった感じだが、実際に宇曽利山湖の明るい湖畔に立てば、浄土の光景を前にしているかのような静けさに心は安らぐ。
カテドラルやモスクのような巨大な石造空間を持たない代わりに、日本の霊場を訪れると、自然景観を取り入れて、非日常的で大きな宗教空間をうまく演出しているなと感じる。高野山の奥の院は、山の尾根と谷の出入りを使い、杉の巨木を林立させることで、参道を奥へと歩くうちに異界へと導かれて行くような気になる。恐山では火山地形が巧みに利用されている。噴気の音と硫黄臭立ち込める殺伐とした賽の川原を歩いて抜けると、カルデラ湖である宇曽利山湖の平穏な広がりに迎えられる。その景観のコントラストは、わかり易いストーリーでつながっている。また山門すぐに唐突に無人の温泉小屋があるが、変な例えだが恐山を「アミューズメントパーク」として見立てるなら、これは他の霊場にはない秀逸な存在に思える。禊の場であり、霊験あらたかな湯治場としての実利も兼ねている。
差し迫った噴火の兆候はないが、活火山のダイナミズムを五感で感じることで、それがそのまま恐山の魅力となっている。
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