恵山 北海道函館市

目次

すべての地形は「現在進行形」で動いています。ただ我々の時間の感覚と地形の営みの時間とでは「ひとコマ」の単位が違い過ぎるため、こちら側からは止まっているよう見えるだけです。

その中で現役の火山だけは唯一、現在進行形の「動感」を感じることができる被写体です。火山ガスなどそれなりに危険もありますが、大地がゴウゴウと唸る音と地面が発する熱を感じることは、撮るこちらの気持ちの高揚感に繋がります。

恵山

激しく蒸気を上げる噴気孔と爆裂火口壁。

活火山 恵山

北海道を海に住む「エイ」の形になぞらえることありますが、その尾びれ(実際のエイには尾びれはありません・・・)にあたるのが渡島半島で、その東端にポツンと「イボ」のように盛り上がっているのが恵山です。

恵山は、気象庁から「常時観測火山」の指定を受けている標高618mの現役の活火山で、道南の地図を広げると、半島の端っこに聳える孤立峰のようにみえます。「なぜここに?」と感じますが、すぐ北に目を転じると内浦湾の向こうには有珠山があり、さらに樽前山から十勝岳へと活火山が並んでいます。

また津軽海峡を渡った先にも恐山から八甲田山へと続く活火山の並びがあり、広く見ると恵山が日本海溝に対する「火山フロント」の線上に位置することが判ります。

爆裂火口壁と賽の河原の全景。赤い岩は熱で「焼けた」イメージを抱かせるが、実際は硫化水素の影響で空気に触れた部分が酸化して赤錆色に変色をしたもの。

賽の河原

函館の市街地から海沿いの道を車で1時間も走れば恵山の入口に到着します。中腹までは大型観光バスも上がれる立派な車道が通っており、標高300mにある火口原駐車場からは片道1時間半前後で山頂に立つことができます。

恵山を観光や撮影で訪れる場合、寒々とした賽の河原を目当てとする人は少なく、駐車場の周辺から恵山の反対側に広がるツツジの群落がその目的になります。特に秋の紅葉は見事で、大勢の人がやって来きます。

駐車場から少し歩くと、恵山のすさまじい全容が見えてきます。約2万5千年前に水蒸気爆発により山体が吹飛んでできた爆裂火口壁です。激しい土砂の浸食と火山ガスのため、いまだに植生の侵入がなく、その荒涼とした景観は、津軽海峡の向こうにある恐山を思い起こすほどです。

賽の河原へ向かう遊歩道から見た火口壁。西向きの火口壁に光が当たるのは午後。写真を撮るなら昼過ぎからが最適。

恵山紅葉

秋には周辺のツツジが見事な紅葉を見せる。見ごろは10月の中旬から下旬にかけて。

賽の河原奥の噴気孔。風のある日に、風上側から望遠レンズで撮影。近寄ると危険。

溶岩の流れた跡

山頂への登山道は、爆裂火口に向かって左の山体を巻くように付いています。特に危険な個所はなく、全体的に整備の行き届いた登山道となっており、天気さえ良ければ、手軽なハイキングコースとなっています。

歩きはじめるとすぐに不思議な岩が山の斜面に広がります。滑らかな面を持ち、同じ方向に走る細長い筋状の穴が幾筋もあいています。

恵山の溶岩は安山岩質で、粘り気が強く、水飴を垂らしたのようにドロっと流れます。岩に残る細長い筋状の穴は、その際になかに含まれていた気泡が細長く伸びた跡です。これを見ることで溶岩が流れた方向が分かります。

左下がりに走る筋は、溶岩が流れる際に内部に含まれていた気泡が伸びたもの。流れた溶岩の方向を示すものを流理構造という。

滑らかな面は流れる際に溶岩が伸びた痕跡。山の急斜面をゆっくりとした速度で降りて行く溶岩の様子が手に取るようにわかる。

山頂へ

恵山の登山道を歩いていると、様々な火山の姿を垣間見ることができます。先ほどの流理構造もそうですが、噴気孔にこびり付いた黄色い硫黄の結晶や爆裂火口壁で見た真っ赤な岩も足元に転がっています。その火口壁の断崖も何度か覗ける場所があり、ここが活火山であることを強く実感します。

山頂は孤立峰らしく、360度の展望が広がります。駒ヶ岳をはじめ道南の山々はもちろん、真横に輝く太平洋とその向こうには、澄んでいれば本州下北半島まで見通すことができます。そして足元には爆裂火口が主役とばかりに大きく口を開けていました。

ガラガラの岩の間を行く登山道

すさまじい火山岩の風景。

山頂稜線から見下ろした爆裂火口壁と酸化して赤変した岩

恵山山頂

恵山山頂。遠く八甲田山が見えた。

取材日:2010年10月24日(紅葉)

2016年5月12日

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