佐渡島① 小木半島を巡る  新潟県佐渡市

例えば高知県の室戸岬なら「付加体」、和歌山県の橋杭岩なら「岩脈」のように、エリアを限定してその場所の特長的な地形を掲げることで、複雑な日本列島の地形・地質も少しは理解しやすくなります。取材前には撮影地の地形について下調べをしますが、そのなかで対象エリアのメインストーリーとなるような事例を探しておき、現地ではそれを中心に撮影を行います。

「佐渡島」はどうでしょう? 下調べ前の予想では、佐渡は大きな島ではあってもひとつの島なので、きっと地質的には単純なのだろうと思っていました。が、なんのなんの、その複雑さは日本列島全体の多様さをそのままコンパクトにしたような印象でした。実際に海岸線を車で走っていても、地形の内容や形成された時代が目まぐるしく変わるので、時系列で佐渡の地質史が頭に入っている人でないと、まったく全体像が見えて来ないと感じました。佐渡島地形をなにかひとつの「キーワード」でくくることはできなかったのです。

そのなかで比較的分かりやすく、しかもビジュアル的にも優れているのが小木半島です。海底火山の噴火によってできた景観と、幾多の地震による大地の隆起の痕跡が半島の海岸部にまとまっています。宿根木のひなびた集落の景観やたらい舟の乗船体験など、佐渡らしい観光スポットが含まれているもこのエリアの魅力です。

夕陽を浴びる潜岩。枕状溶岩の白い雲型の模様が魅力的。

船大工が住んだ宿根木集落を歩く

佐渡島第二の港、小木港を起点に海岸沿いを走る県道を10分も走れば、宿根木の集落に到着します。金銀を運んだ千石船を作った船大工たちが暮らしていた木造集落は、今や佐渡を代表する観光地になっており、休日にもなると大型観光バスが列をなして停まっています。

できればこのような路地は誰にも会わないタイミングで歩きたいものです。船大工という特殊な職業の人々が建てた家屋は、やはりどこか他の木造家屋の家並みとは違う気配が漂っており、自分でそれが嗅ぎ分けられるかが路地歩きの鍵になります。集落の少し奥にある称光寺も、苔むした石仏や石塔が並び雰囲気があります。

入港するフェリーからみた小木港。

佐渡の風物の代名詞「たらい舟」。

宿根木集落で一番のフォトスポット「三角屋」。

石畳の路地。

古い郵便局。

集落奥の称光寺。観光エリアではないので静かにお参りを。

宿根木の隆起波食台

宿根木集落の散策を終えたら県道を渡り、海岸の岩礁に出ます。小さな湾を右にまわり込むと、広く真っ平な岩の上に出ます。1802年に発生した小木地震で、約2mほど大地が隆起してできた「隆起波食台」です。この岩の平面は、波の動きや潮流・潮位の変化によって海底の凹凸が削られたもので、地震前は海岸線沿いの浅い海底だったところです。また波食台の縁には地震前に波が崖を削ってできた凹み(ノッチ)も残されています。

宿根木の波蝕台の岩を間近で見ると、黒っぽい小さな礫がいっぱい含まれています。これは水中で火山から噴き出した溶岩が、海水に触れて瞬時に固まり、はぜて「礫」となって堆積してできた水中火砕岩です。礫の表面を見ると、溶岩が海水で急冷されたために、黒く光沢感のあるガラス質状になっていることがわかります。

空から撮った佐渡島の写真を見ると、平坦な土地と急崖が繰り返しながら段々になって海から山へと登って行くのがわかります。平らな部分が隆起波食台であり、佐渡島が幾多の地震によって隆起しできたことがわかります。波食台の平坦地には田畑が広がり人家も建ち、生活の基盤となっています。

宿根木海岸の隆起波食台。地震前は浅海の海底面だった。

隆起前に波によって削られてできたくぼみ。ノッチと呼ぶ。

黒い色をした噴出礫と火山灰などが積もってできた火砕岩。

海水で急冷された溶岩は、大小の黒いガラス質の礫となった。

波食台は塩田などにも利用されていた。これは塩田と集落を行き来するための手掘りのトンネル。

塩田跡の波食台にある奇岩。

標高70mにある約8万年前の海食洞の跡につくられた岩屋山石窟。

白い模様が美しい潜岩

宿根木から県道45号を沢崎鼻の先端まで走り、少し回り込んだあたりに三ツ屋という小さな集落があります。港にはタライ舟が係留されており、ここではまだ現役でタライが漁に使われていました。遠くからなのでその様子は良く見えませんでしたが、船よりも小回りが利くので、波食台の小さな入江にも自在に入り込んで漁をされていました。

その一角にあるのが枕状溶岩からなる潜岩(くぐりいわ)です。地元の人はその特長的な表面の模様から「キリン岩」とも呼ばれています。宿根木での水中火砕岩は、急冷された溶岩の表面は黒っぽい色をガラス質でしたがが、ここでは同じ急冷であってもガラス質の色は白色です。赤茶けた溶岩の土台に対して白い雲型の模様が映えて、この岩の特長であり大きな魅力となっています。

この枕状溶岩の白い模様はこの岩だけではなく、足元の波食台や県道を挟んだ山側の岩肌まで続いています。かつてこの辺りは日本海の海底で、大規模な溶岩の噴出があったことがわかります。

県道45号沿いにある潜岩。

潜岩全景。

枕状溶岩の模様

県道を挟んた山側の岩肌にも枕状溶岩の模様が広がる。

宵時刻の潜岩。白い模様だけが浮かび上がる。

マントル直送の岩石 神子岩

バス停ひとつ沢崎鼻側に戻った白木には、「マントル直送の岩」と銘打たれた「神子岩(みこいわ)」があります。遠くから全体を見ると黒ずんだ岩に見えますが、近づいてよく見ると、黒ずみの下にオリーブ色の結晶が散らばっているのが分かります。この結晶こそがマントルそのものである「かんらん岩」です。マントルは、地球の表皮にあたる地殻のさらに下にある物質で、今の人類の技術はそこまで地中を掘り進むことはできなく、直接目で見て調べることができない世界です。神子岩は、海底が引き裂かれ、日本海が広がってできる過程で、薄くなった地殻を突き抜けて、マントルが地上にまで上昇し貫入したのではと推測されています。いずれにしても「ほぼマントル」からなる岩に触れることができるのはごく限られたことで、とても貴重な岩と言うことになります。

神子岩への道標

神子岩を見上げる。溶岩が冷えた時にできた柱状節理が走る。左の白い筋は炭酸塩の岩床。

神子岩全景。岩壁は二つの岩の間に入って見上げる。

オリーブ色の結晶がかんらん石。

沢崎鼻と元根木の枕状溶岩

沢崎鼻は佐渡島の南西端あたりに位置し、付近の県道からは晴れて大気が澄んでいれば本州の上越の山々や北アルプスが見えます。ジオスポットである波食台に出るには、三ツ屋方面に下った先にある2つのトンネルの間に海岸に出られる入口が設けてあります(駐車場はなし)。入口付近は枕状溶岩の模様が広がっており、波食台を奥に進むとタケノコ岩と呼ばれる奇岩や崖を貫く岩脈があります。

また宿根木と小木港の中間あたりにある元根木には、海底に流れ出た時のままの生々しい立体的な枕状溶岩が見られます。県道から海岸への道はやや細いので注意。駐車スペースもありません。

かつての波食台の上に立つ沢崎鼻の灯台。その下には最近の地震で隆起した波食台が広がる。

沢埼鼻の波食台への入口。

沢崎鼻の波食台。表面は枕状溶岩の模様が見える。

通称「タケノコ岩」

元根木の枕状溶岩の案内板

元根木の枕状溶岩。中から赤い溶岩が出てきそうなほどリアル。

枕状溶岩の内部。中心から球形の外側に向かって放射状の節理ができている。

取材日:2017年5月25日~5月31日

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