隠岐の島の島後において、ジオ的に一番重要な被写体はこの「隠岐片麻岩」だろう。人気があるはローソク島と夕陽のコラボであるが、あれは言葉悪く言えば「見かけの良さ」だけで、地質的には隠岐片麻岩に並ぶものではない。
「大切なシーンなのだが、視覚的には美しくない」、博物誌寄りに自然を撮っていると頻繁にこのようなことに突き当たる。視覚的には美しくなくても、意味を理解することで魅力を感じる場面が自然界にはたくさんある。そう言ったことをいかに視覚で伝えるかが写真家の使命だと思う。隠岐の島の取材中も、本当は真っ先に隠岐片麻岩の露頭を見に行く予定だったが、容易に答えが出ないことが予測できたので、立寄りを最終日にまわしてしまった。
今は便利だなあと思うのは、実際の地形を前にしながらそれについてスマホで調べ事ができる。もちろん取材前に下調べは入念にしておくが、現場のリアリティの前では役に立たないことの方が多い。質問をぶつけるような指導教官は最初からいないし、ガラケー時代ならそのまま不完全燃焼で帰っていただろう。今回も露頭を前にして、カメラ片手に片麻岩全般についての検索を行った。結果として見えてきたのが岩の表面に走る片理模様だ。この岩が地中深くで高圧高温の変成作用を受けた証である。片理模様がキラキラと魅力的に見えた時点で先も見えた気がして嬉しかった。
結果的にこの写真は、地形を撮り始めてようやく納得ができた最初の一枚になった。
【隠岐片麻岩】
隠岐の島から岐阜の飛騨地方に連なる変成帯に含まれる岩石。日本列島を構成する岩は、付加体と火山の噴出物が大半を占めるが、隠岐片麻岩は、列島が大陸外縁にあった頃に生まれた岩で、日本列島誕生前夜の物語を読み解く試料となる。朝鮮半島で見られる変成岩と近い組成が確認され、日本海が広がる前は隠岐の島(西日本)が、そのあたりにあったと推測されている。島後では珍しい岩ではなく、採掘されて石材として流通している。見学のための露頭は、銚子ダムの道路脇に駐車場まで用意して整備されている。