室戸岬  高知県室戸市

日本列島の地質は、総じて日本海側のものほど年代が古く、太平洋側に行くほど新しくなります。太平洋に突き出た室戸は、地質的には一番新しい「四万十帯」と呼ばれる地層群でできており、室戸岬に関しては、およそ1600万年前に深海の底で堆積しました。海岸線の岩礁を眺めていると、つい今しがた海の中から現れた、そんな鮮烈な映像が頭に浮かんで来るのです。

天に輝くオリオン座とシリウス。そしてそれを衝くタービダイト層の地層。

南の果て 室戸岬の自然

四国の最南端は足摺岬ですが、室戸岬の張り出し方も半端ではなく、その先端まで行くには、徳島市や高知市といった大きな街からはかなりの時間を要します。道中延々と広がる太平洋の海原や山の濃い緑を眺めているうちに、現世との隔絶が心に刷り込まれていくのを感じます。そして到着した岬の先端で太平洋を眺めていると、「南の果て」まで来たなと実感するのです。

その太平洋の沖合140km先の深海には「南海トラフ」が横たわっています。室戸岬はそこを震源とする度重なる地震で隆起しでできた土地で、山上部に広がる平坦な土地は、かつての海面の高さであり、波により侵食されてできた海食台のなごりであると言われています。断崖上から海を見下ろす足摺岬とは好対照に、海岸線付近の高さに人の生活圏となるスペースがあるのも、有史以来の何度かの大地震で海食台が隆起したためです。

岬の先端部のタービダイト層の岩礁とその奥に見える室戸岬灯台。

南に突き出た岬の先端からは、朝日と夕日の両方が見える。特に寒い季節は下方蜃気楼による「ダルマ太陽」が見られることも。

縞模様の岩礁にガッチリと根を食い込ませる南国系植物のアコウの大樹。

室戸岬の地形歩きの出発点となる「室戸世界ジオパークセンター」。

地形の展示コーナー。本音を言うともう少し充実した内容が欲しい。

太平洋を見渡す室戸岬灯台。

桂浜の龍馬像と並び太平洋を眺める中岡慎太郎像。

空と海。

岬の中腹に建つ四国霊場のひとつ「最御崎寺」。

背後の山には照葉樹の森が広がる。

室戸岬周辺の海底地形。岬の東側では南海トラフへと続く急崖となっている。

岬先端の展望台から見た東の海岸線。急崖が海底まで続く。

室戸では、海底から急崖に沿って湧き上る「海洋深層水」を汲み上げて商品化する事業が盛んだ。

西の海岸線は、山上に平坦地が広がる海岸段丘が広がっている。

南海トラフとは、良くも悪くも密接な関係にある室戸では、次の大地震のことも忘れてはいけない。岬の先端では地震発生から10~20分で最初の大津波が到達すると予測されている。

岬の駐車場脇にある地震の観測施設。

タービダイトと付加体

まずは「タービダイト」と「付加体」というふたつの言葉について解説します。これを知ることで室戸の地形の特異性がより深く理解できるからです。

川によって運ばれる砂粒や泥は、河口から海に流れ出て近海の海底に堆積します。厚さが増すと自重の圧力により水分が抜けて堆積岩へと変化していきますが、海底の急斜面などに降り積もった不安定な堆積物は、地震などが引き金となって、一気に深海へと崩れ落ちて行くことがあります。砂や泥などが混在しながら落ちて行きますが、その粒子の大きさにより落下速度が異なるため(砂粒の方が早く落ちる)、砂と泥の新たな地層が深海底に生まれます。これを「砂泥互層」「タービダイト」と呼びます。室戸岬の白黒ストライブの岩礁は、四国沖の南海トラフの水深4000mの海底で出来たタービダイトだったのです。南海トラフの溝を陸側にたどって行くと、静岡県の駿河湾に到達します。室戸岬のタービダイトの砂や泥の起源は、駿河湾に流れ込む富士川が運んできた土砂でした。

では深海に降り積もった白黒ストライプのタービダイト層は、どのようにして地上に現れたのでしょうか?  日本列島に沿うように走る海溝やトラフといった海底の深い部分は、遠洋からやって来た海洋プレートが大陸の下に沈み込む場所にあたります。海洋プレートの上には、プランクトンやサンゴの死骸、大気中を漂う塵や火山灰などが堆積しています。さらにそこにタービダイト層なども加わります。ただそれらの堆積物の大部分は、海洋プレートと一緒に大陸の下に潜ることはできません。リンゴの皮を剥くように、大陸のヘリによってプレートからはがされてしまいます。行き場のない堆積物は、そのまま大陸のヘリに次々と押し付けられていき、新たな陸地へとなります。これを「付加体」と呼んでいます。プレートが沈み込む場所にだけ見られる陸地化の現象です。

室戸岬のタービダイト層が折れ曲がり、一部バラバラになっているのは、大陸に押し付けられた際に強い力がかかって変形したためです。

白く見えるのが砂からできた砂岩層、黒く見えるのが泥からできた泥岩層。

砂岩層の方が侵食に強く、離れて見ると浮き立って見える。

大陸の縁に押し付けられる際に、水平だった地層は変形し、激しく褶曲する。

岬先端を歩く 付加体と斑レイ岩

中岡慎太郎像の周辺には駐車場と観光トイレが併設されており、ここから海岸沿いに「ビシャゴ岩」まで遊歩道が出ています。また地形の見どころの前には、その成因などについての解説板が設置してあるので、その理解に大いに役立ちます。

岩は植物などとは違い、向こうから何かを語りかけてくれることはあまりなく、愛想のない無表情に見えてしまいます。でも逆にその表情から成り立ちなどを読み取ることができると、無機質な岩が生き生きとした有機物のように思えて来るのです。室戸岬のタービダイト層は、形も変化に富みどちらかと言うと雄弁な岩礁なので、解説板の前に立ちその声をじっくりと聞いてほしいと思います。

国道から、ウバメガシやアコウの照葉樹のトンネルを抜けると、明るく広い海岸線に出ます。タービダイト層は探すまでもなく、そこここで自由奔放な形態をさらしています。あたりは玉砂利の浜になっているので、遊歩道を外れ岩礁の間を自由に歩いてまわりましょう。特に中岡慎太郎像の前から浜に出たすぐにあるタービダイト層は、大きさといい、造形性といい、室戸岬を代表する「作品」だと言えます。

遊歩道は岬の先端部から東の海岸に沿って続きます。目の前に「エボシ岩」の尖った岩塔が見えてくると、あたりの岩はタービダイト層の堆積岩から、丸っこい外観をした白と黒の結晶がまだらに浮かぶ火成岩へと変化します。サラサラの玄武岩質溶岩が地中で冷えてできた「斑レイ岩」という岩です。その溶岩によって焼かれて変成した堆積岩の「ホルンフェルス」が、斑レイ岩に接しているところも見ることもできます。

岬の先端部にある大きなタービダイトの岩礁。室戸を代表するその造形性に目を見張る。

晴れた昼間も気分がよいが、満月が昇る室戸の海も素晴らしい。

タービダイト層の岩礁と南の星空。岩にあたっている赤い光は国道の外灯。南の果てである室戸岬でさえ完全な闇は望めない。

歩きやすい遊歩道が整備されている。

地形の成り立ちなどわかりやすい解説板が随所に設置してある。

歩道から外れると、さまざまな形態をしたタービダイト層を見ることができる。

烏帽子岩が近づくと、あたりの岩はタービダイト層から火成岩である斑レイ岩へと変わる。

斑レイ岩の表面。花崗岩に似ているが、黒い結晶の割合が多い。

斑レイ岩の岩礁。岩質が変わると景観の印象も変わる。

室戸のシンボル的なビシャゴ岩も、斑レイ岩からなる。

手前は、貫入した溶岩に焼かれた堆積岩が変成した「ホルンフェルス」。奥はその溶岩が固まった斑レイ岩。

最御崎寺にある斑レイ岩からなる「鐘岩」。たたくと鐘のような音がするという。

国道脇にあるミロク洞。空海修行の伝説がある。その頃は、この洞窟の入口が海面の高さだったので、ここから見える海の風景は今とは違ったのだろう。

ジオパークセンターから車で5分のところにある日沖海岸の枕状溶岩。付加体として他の岩と一緒に陸に付加された。

日沖海岸の枕状溶岩。枕を積んだような枕状溶岩の特徴がよくわかる。

さらに車で10分のところの夫婦岩のご来光。落石があるので立入禁止となっている。

表面は塩類風化により虫食い状態になっている。

行当海岸を歩く

行当(ぎょうど)海岸を海側から空撮した写真をよく見ます。海岸線を走る国道脇から急斜面が始まりますが山頂として尖ることはなく、傾斜は中腹で途切れてしまい、山上には真っ平らな土地が広がっています。今はそこが畑として利用されていることがその空撮写真からもわかります。この平坦地こそ、かつての海食台のなごりであり、国道沿いからもそう意識して見上げると等高線で輪切りにしたように山上が平坦になっていることがわかります。

行当海岸には国道沿いに地形観察のための駐車場が設置してあります。遊歩道も短めですが新設されており、スランプ構造や海底の模様の化石である「化石漣痕」などを見ることができます。

海に突き出た行当岬。山の上部が平坦地になっていて(白い線を引いた部分)「海岸段丘」の地形を示す。

行当海岸に新設された駐車場。

駐車場からすぐのスランプ構造。海中の地滑りにより平行な地層がバラバラになって再堆積した。「事件現場」を見るような壮絶な迫力がある。

海底に残る水流のあと(リップルマーク)が化石となって現れた。これほど見事な漣痕は見たことがない。

こちらは舌先のような形状の漣痕。周辺の砂岩層の至るところに漣痕が見られる。

画面右上から左下に走る砂泥互層の縞模様を割いて走る砂岩の岩脈。地震により避けた地層の割れ目に液状化した砂が吹き上がってできた。

海底を貝が這って動いたあとの化石。生痕化石という。

黒耳海岸を歩く

行当海岸から車で2分も走れば道の駅「キラメッセ室戸」に到着します。黒耳(くろみ)海岸の観察はここが起点になります。このあたりのタービダイト層の堆積は4000万年~3500万年前とされ、室戸岬のものより古くなります。地形の見学地としては2か所に分かれており、キラメッセの真下にある通称「千畳敷」と呼ばれる平坦な岩礁と、道の駅から高知市方面に徒歩10分ほど歩いたところにスランプ褶曲がみごとなタービダイト層の岩体です。

道の駅から俯瞰する千畳敷は、平行に並ぶ縞模様が美しく惚れ惚れとしてしまいます。またその上に立つと、砂岩層と泥岩層の質感や侵食のされ方の違いなどがよくわかります。まっすぐに伸びる砂岩層をしゃがんでまじかでよく見ると、小さな渦巻が所々で見られ、何か平穏ではないことが起きたのだろうと推理するのも楽しいです。

もう一方のタービダイト層の付近には駐車場がないので、道の駅に車を停めて徒歩で移動をします。国道に一度出て1km弱を歩きます。目印としては「盲堂谷橋」という小さな橋で(川が小さく橋だと気が付きにくい)、それを渡った先から海岸へ入り、海に向かって右手にある岩体が目指すタービダイト層になります。渦を巻くような褶曲や地層を割くように走る砂岩の岩脈などが見られます。

キラメッセの真下にある「千畳敷」と呼ばれるタービダイト層。平行に並ぶ縞模様の広がりが見事。

夕暮れの千畳敷。この赤も国道の外灯が照っている。

道の駅「キラメッセ室戸」。レストランの他に、クジラの博物館などが併設されている。

平行な砂岩層も間近で見ると「乱れ」があり、ドラマがあったことがわかる。

道の駅から徒歩10分の所にあるタービダイトの褶曲。

褶曲を間近で見る。

この付近には褶曲だらけで、水平・垂直感が変になりそう。

耳を連想させる巨大な砂岩脈

取材日:

2016年1月16日~17日

2016年3月22日

2018年1月16日~19日

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