スイス ヴァリスアルプス

北アルプスの蝶ヶ岳山頂から対岸に聳える槍・穂高連峰の東面を眺めながら、かつてこの山を削り流れていた氷河の様子を空想していた。少ないながらも氷河に対する知識を元に、脳内で氷河の画像を槍・穂高の山肌や谷筋にコピペするだけであったが、それなりに楽しむことはできた。ただやはり「確からしい」ものを求めるのなら、本物を見ないことには始まらないなあと実感したのも事実で、それが今回のヴァリスアルプス取材のきっかけとなった。

夏に行くか、冬に行くか。もし氷河の様子を克明に見るのなら雪の覆いがない夏が適しているだろう。ただアルプスの山々が美しいのなんと言っても雪をまとった冬である。おそらく一度では氷河の取材は済まないだろうとの予測もあり、何度か行くことを前提にするのなら、まずは美しい白銀のアルプスを見たいということで、今回は冬季にスイスへ向かうことにした。

ゴルナーグラートから北の星空を望む。ツェルマットの町明かりを受けて光る雲海とその上に聳えるヴァイスホルン。

マッターホルン Matterhorn(4482m)

しっかりと固めた砂の山を四方から手ですくっていくと、不安定な部分が崩れながら最後には中央部あたりに鋭角的な砂の山が残る。これと同じ成因で氷河によって削り出された鋭角的な山を「氷食尖峰(ホルン)」という。マッターホルンはその代表格的な存在であり、スケールは下がるが日本アルプスの槍ヶ岳も同じく氷食尖峰である。

マッターホルンの山体の上半分は、古生代の花崗岩や地下で高圧の変成作用を受けた片麻岩からできており、その硬い岩質が幸いして、氷河期には流れる氷によって研磨されて今の鋭利な山容が形づくられた。またその下半分の岩は、おもに中生代の堆積岩が変成作用を受けたものと、地殻深部の岩石(かんらん岩など)の混成からなる。なぜ上下でこれほど岩の性質が異なり、しかも古い年代の岩が上に重なることになったのか?

それはヨーロッパ大陸がアフリカ大陸に押され始めたことにより、地殻の一部が破断し、めくれ上がった地層が基盤上を滑るように移動したためだ。結果として関連のない地層が上下に重なっているように見える。その後の大地の隆起にともない、今やその地層の境目は、マッターホルンの山体に含まれるまでに高まった。

ゴルナーグラートから望む朝焼けのマッターホルン。冬季はとなりのブライトホルンの日陰に入るため、朝日が当たるのは他の高峰に比べてワンタイミング遅れる。

リッフェルベルク駅付近から見るマッターホルン東壁。

ツェルマットの最上部あたりから見るマッターホルン。東壁(日の当たる左側)と北壁(日陰の右側)がバランスよく見え、いわゆる万人が思い描くマッターホルンの姿はこの角度からになる。

クラインマッターホルン展望台からのマッターホルン。秀麗なスイス側からの姿とは異なり、三角錐の荒々しい岩峰の姿をさらす。マッターホルンの「裏の顔」的な扱いであまり好まれないが、個人的には生っぽくて好き。日陰となっている右半分の雪面部が東壁、日が当たる左半分の岩肌が南壁。

シュバルツゼーから見上げる東壁。下部には懸垂氷河がかかっている。

月光に照るマッターホルン。孤立峰独特の複雑な気流の様子が、長時間露出した写真に写る。

ゴルナーグラート駅の駅舎の石組み。今は一面の雪で地上の様子はわからないが、おそらくこのような岩があたりに転がっているのではないか。目立つのは緑色片岩。

ヴァリスアルプスの名峰

●ヴァイスホルン Weisshorn (4512m)

ゴルナーグラートから望む朝焼けのヴァイスホルン。三角形の山稜と切れ落ちる岩壁が見事。

夕暮れのヴァイスホルンとツェルマットの谷に広がった雲海。ゴルナーグラートより。

●ドーム Dom(4554m)とテッシュホルン Taschhorn(4494m)

夕照を浴びるドーム(左側のピーク)とテッシュホルン。写真右手の台形の山は、アルプフーベル Alphubel(4207m)。ゴルナーグラートより。

●モンテ・ローザ Monte Rosa(4638m)

午後の光を浴びるモンテローザ氷河とノルドエンド峰(Nordend)の岩稜。ゴルナーグラートより。

シュバルツゼーから見る雪の風紋と午後のモンテ・ローザ(左奥のピーク)。

●ブライトホルン Breithorn(4148m)

夜明け前のブライトホルンと残月。写真の左端、稜線に並ぶふたつのピークは、カストール(4230m)とポルックス(4094m)。

●オーバーガーベルホルン Ob.Gabelhorn(4073m)

朝焼けのオーバーガーベルホルンとウェレンクッペ峰(3910m)。

●ダン・ブランシュ  Dent・Blanche(4364m)

雲が多い夜明けだった。快晴の朝焼けは安心して見ていられるが、こんな日は不意にいい光がやって来る。

午後のダン・ブランシュ。下の雲海にはマッターホルンの長い影が伸びていた。

氷河を眺める

ロートホルン展望台から見たオーバーガーベルホルンの谷氷河。主峰の下にある氷河の「たまり」(カール地形)とそこから流れ出る氷河が正面から見える。

地形の起伏により滝状になる氷河。氷河の下では段差があるのだろう。ブライトホルン氷河。

ブライトホルン山頂に乗る分厚い氷帽氷河。

谷に落ちそうな氷河末端部のセラック(氷塔)。

ブライトホルン山頂へ続く大雪原と谷に開くクレバス。

画面下に見える擦過痕のような縞模様は、氷河が流れる際にその側面に積んで行った堆積物。ラテラル・モレーン(側堆石提)と呼ばれる。

旅のスケッチ

スイスの玄関口 チューリッヒ国際空港。

立ち寄ったベルンの旧市街地。世界遺産。

ツェルマットの駅前。

ゴルナーグラート鉄道。車体に映るアルプス。

リッヘルベルクにある小さな礼拝堂。

ゴルナーグラート駅とマッターホルン。

標高3100mに建つクルムホテル。居ながらにして、アルプスのパノラマを欲しいままにできる。

夕暮れのクルムホテル。宿泊して朝夕を撮ることがずっと憧れだった。

ホテル客室。山荘風の内装が心地いい。

ホテル客室。

私の部屋からはブライトホルンからモンテ・ローザが一望できた。

ホテルのレストランと前菜のビュッフェコーナー。

沸点の低い標高3000mでの調理は難しいのに、この美味しさとこだわり。

夕食のデザート。

毎朝、パンの種類が変わる。 どのパンも美味しかった。

朝食のハム。隣のチーズも種類が豊富。

朝食のドリンクコーナー。

岩場に立つアルプスカモシカ(シャモア)。

ダイヤモンドダストが朝日を浴びて輝く。

テーブルの上は、霜ではなく、ダイヤモンドダストが降り積もっている。

取材日:2018年2月5日~8日

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