甌穴は、窪みにたまった砂や小石が水流によって研磨することによってできる。その姿は陸からも十分観察することはできるが、もともとは水面下で生まれる地形なので、水中から撮ってみたいと思っていた。撮影地の候補を記憶からたどると、愛媛の面河渓の清流が思い浮かんだ。
東急ハンズで買ったクリアケースにカメラを入れて、慎重に水中に沈めると、花崗岩の妖しい曲線に光の筋がゆらゆらと揺れて、幻想的な世界が現れた。陸上で見る甌穴のほとんどが、すでに水流から離れた「過去のもの」なのに対して、水中で見た甌穴は進行形を見るような新鮮さがあった。水中で起こる地形は水中で撮る、当たり前だけど見落としていた視点に気が付いた瞬間だった。
※クリアケースにカメラを入れての水中撮影は、クリアケースの強度が保証されていないのでお勧めしません。水中ハウジングを使用するか、防水機能のあるデジタルカメラを使用して下さい。
【面河渓】
面河渓は、愛媛と高知の県境付近に聳える石鎚山系を源とする渓谷である。白い花崗岩とそこを流れる沢水の青の対比がとても美しい景勝地だ。石鎚山の山体は、噴火によってできたカルデラに火砕流による火山灰がたまり、自らの重みと熱によって溶けてできた溶結凝灰岩からなる。硬質な溶結凝灰岩は浸食に強く、中央構造線による急激な隆起運動もあり、石鎚山山頂部は急峻な断崖が連なるアルペン的な景観が広がっている。亀腹岩など、面河渓で見られる急崖もこの溶結凝灰岩からなる。